
ウィーンから車で1時間ほど南へ走ると、街のざわめきがふっと離れていき、
森の香りが深く、静かに満ちてくる。
その境目をすぎた頃、
ホーエ・ヴァンドの山影に寄り添うように
小さな村・Wuerflach(ヴィアーフラッハ) があらわれる。
広い空、湿った木の香り、
どこからか流れてくる薪の匂い。
冬の気配の中でも、ここは不思議なほど温かい。

Wuerflach の歴史は派手ではない。
中世のころからずっと、
人は森と山に守られ、
羊を放ち、木を使い、
静かな暮らしを積み重ねてきた。
大きな産業も、にぎやかな通りもない。
あるのは、自然の豊かさと、人の温もりだけ。
だからだろう、
この村には“作る”ことを大切にする空気が残っている。

削った木の感触、
ざらりとした布の手触り、
どれも人の体温がそのまま残っているようだった。
大都市のような大きなイルミネーションはない。
けれど、1つ1つの飾りが丁寧で、
手のぬくもりがそのまま形になっている。
木を削って作ったオーナメント、
焼きたてのクッキーの甘い香り、
手仕事が感じられるものばかり。
“買う”のではなく、
“作る”という行為そのものが、
この村ではまだ当たり前に息をしている。

Wuerflach のクリスマスマーケットは
本当に小さくて、飾りすぎない。
だからこそ、ここには
**“クリスマスの原型”**のようなものが残っている。
焚き火の近くに集まる人たちの笑顔、
湯気の立つホットワインの香り、
森の気配とともに響く小さな音楽。
どれも静かで、やわらかくて、
胸の奥のほうにじんわりしみてくる。
華やかさより、ぬくもり。
派手さより、寄り添い。
ここでは、クリスマスは“祝う日”というより
“分かち合う時間”として息をしていた。